調べない「しらべぇ」の外国産クワガタ輸入禁止の記事がデマ過ぎる

いきもの関連

新甲虫王者ムシキング デッキ福袋
写真:新甲虫王者ムシキング デッキ福袋

「しらべぇ」なのに全然調べずに記事を書いているようなので、気になる部分を指摘しておく。デタラメな思い付きで業界を貶めるのはやめてほしい。
以下の記事は3月17日に「しらべぇ」に掲載されたもの。

現実世界での「ムシキング」に法規制か 外来クワガタ輸入禁止へ – しらべぇ

タイトルが釣り気味なのは仕方がないが、内容が事実に基づかない事柄ばかりで、いったい何を調べてこんな記事を書いているのか不思議でならない。
「輸入規制」「販売縮小」の部分などは完全にデマである。

外来生物法を理解せずデマを書いている

私の知人には昆虫販売業者が多くいるので、あらぬ疑いや偏見に晒されないようデマは潰しておく必要がある。

ムシキングブームは後発である

件の記事にはこう書かれている。

十数年ほど前、『甲虫王者ムシキング』というゲームがブームになった。
これは世界各国のカブトムシやクワガタを戦わせる趣旨のゲームで、全国の少年たちがゲームセンターに大挙した。またこのブームに合わせ、本物の外国産甲虫がホームセンターなどで売られるようになった。

そんな事実はありません。ムシキングは2003年に登場したカードゲームですが、昆虫ブームは90年代の後半に「黒いダイヤ」として日本のオオクワガタが人気となったことに始まり、1999年に外国産クワガタ・カブトムシの輸入を農林水産省が許可したことで爆発的なブームとなった。
そのブームに乗っかる形でセガが「甲虫王者ムシキング」を発表したというのが事実。前述のとおり1999年に輸入が開始されたこともあり、ホームセンターへの卸業務はこの時期には既に始まっている。確かにムシキングブームで販路が拡大したとも言えるが同時に、大量輸入と自家繁殖で価格が大暴落していた時期でもある。
その苦境をムシキングブームが盛り返したという事実もない。
参考【経験者は語る】ムシキングによる昆虫ブームなんて無かったよ。

外来生物法は輸入規制ではない

この記事ではあたかも外来生物法が輸入規制であるかのように書かれているが、これは完全に調査不足である。
昆虫の輸入に関しては農林水産省の植物防疫所が管轄しており、法律も外来生物法ではなく植物防疫法である。植物防疫所に申請され許可された種のみが輸入可能となっており、それ以外の種はすべて持ち込みができない。
一方、外来生物法は環境省主導の法律で、特定外来生物の指定も環境省が専門家会合を開いて行っている。
外来生物法に指定されれば輸入できないというのは事実だが、その理由は「一切の取り扱い禁止」だからだ。当然、飼うことは原則禁止、移動させることもできないことになっている。
件の記事では甲虫が指定されるのが始めてかのように書かれているがこれも間違いである。

もっとも、今現在の時点ではまだ検討段階だが、長らく問題視されてきた外国種の甲虫を「特定外来生物」に指定する目処が立ったのだ。

甲虫類では2006年にヤンバルテナガコガネを除くテナガコガネ属全種・クモテナガコガネ属・ヒメテナガコガネ属が特定外来生物に指定されている。違法飼育と取引で逮捕者も出ている。
参考:テナガコガネ飼育で逮捕、9人から計174匹を押収

そして、なによりも外国産昆虫は輸入が「禁止」されているのではなく、農林水産省が植物防疫法で「許可」した種が輸入されているのであって、ブラックリスト方式ではない。特定外来生物に指定されていなくても植物防疫法で許可されていないゴライアスオオツノハナムグリやギデオンヒメカブトなど、多くの甲虫が輸入の許可をされていないのが現状だ。
参考【昆虫密輸】ゴライアスオオツノハナムグリを密輸した男を書類送検

昆虫の取り扱いについては外来生物法・種の保存法・植物防疫法・関税法など複数の法律が関係し、専門家でも誤解することがある。だからこそ、このような記事を書くときには注意が必要なのだ。
参考:昆虫密輸や規制昆虫飼育をカッケーと思ってる人達

生態系への影響はすでに出ている

外国産甲虫の大半が性的隔離(生殖器の形状が変わるなど)により日本原産種と交雑は不可能で、気候の違いからも屋外繁殖はほぼ不可能と言われている。しかし、実際にヒラタクワガタなどは外国産の大型種と日本産が野外で交雑していることも確認されており、外来生物法においては、制定当初からクワガタムシ科の全種が要注意外来生物(現 生態系被害防止外来種)に指定されている。
今後、全種が指定される可能性は低くはないが、外国産クワガタムシはあまりにも自家繁殖されている個体数が多く、規制発表と同時に大量遺棄が始まる危険性から指定が見送られている状態だ。この一連の経緯は専門家会合の議事録にも記録され、現在でも閲覧可能である。
外国産甲虫の記事を書くならしっかり調べて、むしろこの辺は厳しく書いてほしいものだ。

マルバネ指定で販売縮小はあり得ない

この記事を書いた人が専門家の意見も聞かず、関連記事も読んでいないのは明白だが、一般飼育者の様子を伺う事すらしていないようだ。
今回、特定外来生物に指定されるマルバネクワガタは一般的な種ではない。一部のホームセンターで見かけることもあるが、スタイルがマニアックすぎて子供が手を出すような種ではなく、飼育してる層はマニアだけ。
日本のマルバネクワガタ (月刊むし・昆虫図説シリーズ)
このマルバネクワガタが規制されたからと言って、ホームセンターに並ぶようなポピュラー種が影響を受けるわけがない。
そもそもホームセンターでの昆虫取り扱いは規制とは関係なく年々減少しており、昨年ムシキングが復活しても増えることもなかった。
だいたい、昆虫飼育を「リアルムシキング」などと表現するあたり、業界関係者には一切取材もせず思い付きで記事を書いたんだろうなと呆れてしまう。

『しらべぇ』
なら調べてよ、ちゃんと。

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【運営・執筆】竹本てつじ【転載について

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