東京選管「違反で死者が出ても落ち度はなかったと言い切れる」

政治・社会

山手線田端駅

参議院選挙東京選挙区が荒れている。
公職選挙法と他の法律、モラルやマナーは次々と無視され「公選法は収賄以外逮捕されない」「選挙中は多少の違法行為は許される」といった、公職の候補者にあるまじき悪質な発想で、壮絶なチキンレースを行っている。

駅のホームで演説をする新人候補。
演説現場でミュージシャンが歌い、演奏をする。
認められた文書図画以外を配布、掲げる。
駅構内や電車内で乗客に迷惑をかける。
他にもゾロゾロと・・・

選挙管理員会は何をしているのか?そもそも何をするために存在しているのか?

選挙管理委員会は取り締まり機関ではない

選挙違反を目撃したら「選挙管理委員会に通報する」という方が多いが、これはほとんど効果がないし、候補者も選挙管理委員会を恐れてはいない。
なぜなら選管は取り締まり機関ではないからだ。簡単に言えば選挙を円滑に行う「事務所」でしかない。
選管に候補者の違反を通報しても「情報提供ありがとうございます。警察へ連絡してみてください。」と言われるだけだ。場合によっては「選管からも警察へ情報提供します。」と言うが、その効果は民間人からの通報に毛が生えた程度だ。

公職選挙法違反に関する取り締まり等は、各都道府県の警察が行っており、東京都では警視庁捜査第二課が常に情報提供を求めている。
だが、警察といえども国の根幹に関わる公職選挙中はほとんど手を出せないのが現実で、容疑が固まったとしても選挙妨害になる可能性があり、逮捕や事情聴取は投票日以降となる。
また、収賄などの事例を除き大半の選挙違反がスルーされ、よくても任意の事情聴取程度で起訴されないのが通例となっている。
これが選挙中の「チキンレース」が起こる元凶でもある。

鉄道事故で死者が出ても落ち度がない?

今回の参院選で、特に批判を浴びた行為が「駅ホームでの演説」である。
他にも駅構内でのタスキ使用を巡っては、法律とマナーの論争が巻き起こる事態となっている。こういった論争とは別に、JR東日本では電車内ではタスキを外すようにお願いをしているという。
これは法律以前に、著名な候補者に支持者等が集まり、他の乗客に迷惑なうえ危険を伴う。著名な特定の候補者だけ断るわけにもいかず、すべての候補者にお断りをしているそうだ。電車の安全運行を考えれば当然である。
駅のホームにおいても、混乱すれば転落等の事故も考えられ、公職の候補者としては自主的にタスキや握手は控えるべきだろう。

鉄道会社敷地内での選挙活動は公職選挙法で禁止されている。
しかし、選挙活動の定義を巡って今回は大きな論争となっており、「法的根拠なし」として電車内でのタスキを強行する構えの陣営もある。
タスキを外さない候補者は「市民の安全」という意識がないのだろうか?そう疑わざるを得ない。

一方で、こういった候補者による迷惑行為や公選法違反に違反しない行為に関し、過剰に候補者を糾弾し選挙妨害スレスレのトラブルを起こす市民もいる。こうならないためにも選管の啓発活動が必要となってくるのではないだろうか?

この一連の問題に関して東京都選挙管理委員会に問い合わせをしてみたが、驚きの答えが返ってきた。

「そういった立場にない」

取り締まりと啓発を混同し、啓発活動を怠っているのではないか?
私はさらにこう詰め寄った。
「JR敷地内やホームで事故が発生し市民に死傷者が出たらどうする。そのとき、自分達にできることは無かったかと心が痛まないのか?そのときも選管には落ち度がなかったと言い切るのか?」
すると選管の担当者は、苛立ったような口調で、

「言い切れます!そのような立場にありませんから!」

この人は自分の言っていることが分かっているのだろうか?
死者がでるような事態になれば選挙管理委員会の啓発活動が不十分だたという意見も出てくるはずだ。死者を出して「選管は関係ない」と言い切ってしまえば、選管の存在自体が無意味で無力ということになる。
総務省のHPにはこう書かれている。

選挙管理委員会は、選挙に関する事務の管理の他にも、選挙が公明かつ適正に行われるよう、あらゆる機会を通して選挙人(有権者)の政治常識の向上に努めることや、投票の方法、選挙違反など選挙について必要と認める事項を選挙人によく知らせることも、重要な職務です。
出典:総務省-選挙管理機関

東京都選挙管理委員会の言い分は総務省の説明と矛盾している。
確かに、公正中立を重んじれば行動も制限されるだろう。しかし、それは「何もしなくてよい」ということではない。その難しい局面で、適切な判断ができるのが選挙管理員会だ。

北海道5区補選「イケマキ」の特例

選挙管理委員会の対応は都道府県と人物によって若干異なることがある。
その中でも、私の経験上最も異例で「大丈夫なのか?」と疑問に思ったのが北海道選挙管理委員会の対応だ。

官房長官も務めた町村信孝氏の死去により2016年春、北海道5区補選が行われた。町村王国と言われた北海道5区だったが、跡を継ぐ形で立候補した娘婿の和田氏は、知名度と政治経験のなさが不安視されていた。一方、野党は池田まき氏を野党共闘で全面バックアップし一騎打ちでの対決構図に持ち込んだ。
池田氏は日本共産党の組織的な支援も受けて健闘したが、自民党の組織力には一歩及ばない結果となった。

この安倍自民と野党共闘の一騎打ちは、公示前から共産党関連団体が精力的に活動を行い、公示後もツイッターを中心に支援の輪を大きく広げていた。
しかし、投票日前日に問題が発生した。
ある池田まき支援者がツイッターで、

「投票日以前にアイコンへ【イケマキ】の文字を入れている人は投票日当日も文字を外さなくてもよいと選管に確認がとれた」

という趣旨のツイートしてしまったのだ。
しかし、ツイッターのアイコンは固定されたバナーやサイトデザインとは違い、ツイート毎に都度表示されるもので、どんな内容のツイートにも【イケマキ】の応援内容が加味される。個別のメンションなら違法性はさらに高くなるだろう。

私は選管にツイッターアイコンの性質を説明し、特定候補の支持者の特別な行動に選管が「許可」を出すのは権限を逸脱しているのではないかとも伝えた。
特定候補者の支持者だけが特例のような行為を認められたのであれば、これは大問題である。

その疑念は図星だった。
私が電話を切った直後に、先述の支持者が、
「選管から連絡があって、やっぱりアイコンからは外さないといけない。」
という内容のツイートを行ったのだ。
選管が特定候補支持者の連絡先を控えていたことは驚きだ。
特定選挙の投票日当日に、イケマキ支持者は選挙違反にならないように選管から直接助言を受けていたということになる。
誤った情報への訂正とは言え、そもそも情報提供していたことが問題。

このような特異な事例もあれば、東京都のように頑なに「何もしない」という所がある。この差は一体なんなのか?
特定候補者陣営に詳しいレクチャーをする北海道選管も問題だが、何もしない東京都選管も問題であろう。

死者が出ても「落ち度がない」と言い切れるだけの啓発は行っていない。
事実として選挙のたびにルールを巡って論争が起きている。
現行の枠組み内での啓発努力と有権者への対応もしっかりしてほしいものだが、選挙管理委員会のあり方と権限にも多くの課題がありそうだ。

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【運営・執筆】竹本てつじ【転載について

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