聴衆がゼロ?なぜ候補者は誰も足を止めない場所で演説をするのか【マガジン230号】
衆議院東京15区補選に出馬している候補者が、周囲に誰もいない車上で演説する様子がSNSで話題となっている。これを「人気がない」「意味があるのか」と嘲笑する向きもあるようだが、その人物は参議院比例で1回、衆議院で3回の選挙区当選をしている人物であり当然ながら誰も足を止めない場所での演説の意味を知ってやっているのだ。
この候補者を笑っている人たちは、通常の選挙演説で支持者に囲まれることが得票につながるとでも思っているのだろうか。多くの聴衆を集める演説と、あえて人を集めない演説では選挙戦略としての狙いも異なるもので、選挙に強い政治家はこれをうまく使い分けている。
誰も聞いてない演説が得票につながる
まず、たくさんの聴衆を集める演説には組織や既存の支持者の士気を高め、友人知人へ候補者の名前を広めてもらう効果がある。もうそこに集まっているという時点で投票先はほぼ確定、そんな聴衆をいくら集めたところで票は伸びないので、仮に100人集まったら友人知人5人に呼び掛けてもらって600票にしてもらうなど、組織内や支持者間での運動強化を訴える。無論、これを繰り返しても同じ人に同じことを呼びかけるだけなので、その頻度とタイミングで選対の手腕も試される。そもそも聴衆を集めるためには候補者や弁士の人気と支援組織の力が必要なわけだが、これらの得票数だけでは当選ラインには及ばない。
一方で聴衆を集めない演説というものは、候補者がそこにいることを知らず偶然に通りかかった人が対象なので新規の得票につながりやすい。ほぼ無視されて誰も聞いていないことから意味はないと思うかもしれないが、あれだけ嫌われる選挙カーの連呼が実際は得票につながっているというデータもあることから、投票先を決めかねていたり政治に興味の薄い層は、いざ投票所に行くと聞いたことがある名前や街頭で見たことがある候補者名を書く傾向にあるのだ。
以上のことから、選挙前の政治活動や選挙中の活動を得票につなげるためには、熱狂的な支持者よりも浮動票をいかに効率的に取り込んでいくかが鍵となる。そうなると誰も聞いていない演説であっても、そこをどれだけの人が通りががって候補者を一瞬でも目にしたかが勝負となる。あまり見かけない候補や聴衆に囲まれて近づくこともできない候補よりも、誰も聞いていない演説を辛抱強く継続する候補者に一票を投じようと考えるのが人情でもあります。
選挙に強い政党のテクニック