選挙中の練り歩き「桃太郎」は公選法違反?誤った認識が横行しているので解説します【マガジン227号】

KSLマガジン


 
 ここ1~2年のことですが、選挙中に商店街などを練り歩く「桃太郎」が公選法違反であるかのような言説や、現場で一般人から指摘されたという話をよく聞く。結論から言うとこれは誤りで、桃太郎は認められた選挙活動であり違反ではありません。

 公選法違反だと主張する人たちの根拠は以下の条文です。

(気勢を張る行為の禁止)
第百四十条 何人も、選挙運動のため、自動車を連ね又は隊伍を組んで往来する等によつて気勢を張る行為をすることができない。
(連呼行為の禁止)
第百四十条の二 何人も、選挙運動のため、連呼行為をすることができない。ただし、演説会場及び街頭演説(演説を含む。)の場所においてする場合並びに午前八時から午後八時までの間に限り、次条の規定により選挙運動のために使用される自動車又は船舶の上においてする場合は、この限りでない。

 この条文の中で特に「隊伍を組んで往来する等によつて気勢を張る行為」がいわゆる桃太郎に当たると誤解している人がいますが、ここでいう「隊伍」とは軍隊的な統率された隊列のことであり、候補者が集団で練り歩くことを禁止するものではありません。(隊列を組み声を合わせるデモ行進はできません)
 簡単に言えば軍隊式の圧力団体のような威圧的な行為をしなければいいということ。隊伍(隊列)と集団での移動は全く異なるもので、候補者の徒歩移動が少数でなければならない法律もありません。気勢を張る行為というのも、威圧的に声を張り上げることや太鼓やラッパのような極端な例なので、一生懸命に支持を訴えることは選挙の自由であって違反には当たりません。

 連呼行為についても、候補者名だけや決められたごく短いワード「丸々に投票をお願いします」を延々と繰り返すことが禁止されているのであって、桃太郎の集団がそれぞれバラバラに候補者本人が来ていることを告げるなど往来する有権者に呼びかけたり、握手や声掛けをお願いすることまでを連呼行為とするのは無理があります。

 また移動しながらの演説も禁止されていますが、前述のような声掛けを演説と解するのも無理筋でしょう。人が集まるなどして政策を訴える場合は候補者は立ち止まって対面で行うことになるので、近くにいる運動員が標旗を掲げていれば問題ありません。逆に標旗を掲げて歩いているから演説だという指摘も見かけますが、いつでも政策を訴えることができるように常に用意しているのであって、演説以外で掲げてはいけないルールもありません。
※呼びかけではない単に名前だけを繰り返すような連呼行為、壇上で行うような政策や主義を一連の流れで主張するような演説にわたらない範囲であれば可能。そもそも桃太郎は演説現場から次の演説現場まで徒歩で移動しながら候補者の存在などを呼びかけることが趣旨ですが、近年はノンストップであることが多く誤解されやすい

桃太郎の歴史に見る正しい解釈

 ある程度の選挙経験や取材経験のある人は上記の説明で理解できるかもしれませんが、とにかく線引きがあいまいで一般人には理解できないのが公選法の難しいところ。とはいえ「桃太郎」はデモ行進でも隊列でもなく、単なる複数人による移動と声掛けですので違反にはなりません。違反でもないことを現場で指摘して、桃太郎を中止させたという話もあるようですが、それこそ選挙の自由を妨害しています。

 この桃太郎を理解するのにちょうどよいエピソードが2016年の産経ニュースに掲載されていました。

【参院選】素朴なぎもん「桃太郎」ってなに?実は常識ひっくり返した新戦術 – 産経ニュース
 (前略)実はこの戦術、昭和30年代の大阪府知事選で、選挙の神様といわれた木船実氏が、「有権者とじかに接したらもっと効果があるのでは」と思いついたのが最初とされる。

 それ以前はトラックを走らせ、辻々や広場で荷台から演説を行うだけのスタイルがほとんど。選挙戦の常識をひっくり返す戦術として注目を浴びた。

 当初は「前例がない」と選挙管理委員会や警察当局も目をつけ、クレームがついたともいわれるが、公職選挙法は、車から降りての選挙活動を禁じてはおらず、一気に選挙の新常識として定着した。(後略)

 要するに桃太郎の発祥は「車両で移動しながら停止して演説」が常識であったものを、徒歩移動しながら有権者と接し立ち止まって街頭演説をやったらどうなるか?という試みだったわけです。集団であっても隊伍を組むことなく、移動中に演説するわけでもないので違反には当たらないということから半世紀以上も選挙の常識として行われてきたわけです。一部ではマイクを使っていることを違反の理由に挙げるひともいますが、車両の拡声器を切って選挙運動用拡声機表示板を表示していれば問題ありません。

 また先日の選挙では桃太郎中に指摘されて「演説中なので」と答えたことが違反の証拠となるかのようなSNS投稿も見かけましたが、桃太郎とは移動しながら立ち止まって街頭演説する一連の行為をさす言葉なので、対応を断る理由として「演説中」と説明することは違反の証拠になりません。

 一方で、昨年だったと記憶していますが某新興政党の自治体選挙で、候補者がトラメガを肩からぶら下げて自身の政策や政談と受け取れる内容を話しながら歩道を歩く動画が拡散されましたが、さすがにあのレベルになると桃太郎ではなく移動演説として指摘されるのは当然でしょう。

 選管への問い合わせトリック

 これは「選挙あるある」なのですが、素人が選挙管理委員会に問い合わせをしても正しい答えを得ることはできません。選管は個別の事例に関して答えることはできませんが、例えば一般論として「隊列を組んで演説をしている」と聞けば「違反の恐れがある」と答えるでしょう。ここに落とし穴があって、選管は隊列を組んで演説することについて答えているのであって、いわゆる桃太郎について違反の認識を示しているわけではありません。この誘導的な質問トリックを使って「違反であると確認した」と騒ぐのは後々に名誉棄損や選挙の自由妨害を逆に指摘されることになるのでやめましょう。

 はっきりいって選管というものはお墨付きを与えることを極端に嫌いますので、少しでも違反の可能性のある事例を提示すれば「違反の恐れ」としか答えません。一方で、具体的に陣営が行っている行為に関しては、第三者からの問い合わせであれば警察への問い合わせを勧めてきます。選管は取締機関ではないという理由ですが、それをもってして違反の認識を示したというわけではありません。とにかく選管への取材経験も知識も乏しい人間が特定候補者の行為に「違反」のレッテルを張るのはやめまよう。

 桃太郎で気を付けるポイント

 桃太郎が違反ではないことは理解していただけたかと思いますが、桃太郎中に行うと別の条文に抵触して違反となる場合があるので気を付けましょう。取材中に目撃した危ういパターンを含めて紹介します。

皆様の支援が必要です KSL-Live!からのお願い

【ご支援をお願いします】取材・調査・検証記事はコピペまとめサイトのような広告収入は期待できません。皆様からの支援が必要です。各種支援方法詳細

【運営・執筆】竹本てつじ【転載について

OFUSEで支援する

このサイトをフォローしよう




KSLマガジン公職選挙法,桃太郎,演説,選挙

Posted by ksl-live!