【デマ】石破内閣が「スパイ防止法は必要ない」と閣議決定→答弁書では「慎重に検討」安倍政権でも同様の答弁【KSLチャンネル】

政治・社会



 石破政権が「スパイ防止法は必要ない」という答弁書を閣議決定したという誤情報が拡散されています。産経新聞の記事をもとに『闇のクマさん』と言うYouTubeチャンネルが扇動的に取り扱ったことが発端ですが、実際の答弁書には「スパイ防止法を必要としない」という内容の記述は見当たりません。

 ちなみに誤解なきよう説明しておきますが、石破総理を擁護する気はさらさらなく、総理がスパイ防止法に積極的だとも思ってません。重要選挙三連敗の責任をとって辞めるべきだと思っていますが、事実ではないことで批判を煽る商売は害悪だと思っているので、今回の答弁書を精査した次第です。
 最後に安倍政権の認識についても説明していますので、最後までお付き合いください。

石破内閣の答弁では否定されていない


 まず最初に答弁書では、れいわ新選組の山本太郎代表の3つの質問に対して「一及び三について」と、まとめて答弁をしています。

 それぞれの質問を要約すると、

一「政府は、日本が各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家であると考えているか」
三「スパイ防止法が制定されていないことが原因で、これまでのカウンターインテリジェンスに関する取組に深刻な不備が生じたと考えるか」

出典:「日本はスパイ天国」という評価及び「スパイ防止法」制定に関する質問主意書

 これに対しての答弁は、
「御指摘のように「各国の諜報活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家である」とは考えていない。」としていますが、これは一定の抑止はされておりスパイが野放しにされているわけではないという趣旨であって、スパイ防止法を否定するものではありません。
出典:「日本はスパイ天国」という評価及び「スパイ防止法」制定に関する質問主意書:答弁[PDF]

「慎重に検討」の本来の意味は?

 次に質問二「政府として、「スパイ防止法」制定にどのような課題があると認識しているか」に対しての答弁は、

 過去の林官房長官の国会答弁を引用し「まずは国の重要な情報等の保護を図るということが重要であると認識しておりまして、必要な取組の充実強化に努めている」「また、関係当局においては、違法行為に対して厳正な取締りを行うこととしている」「そうした対応を行った上で更に措置が必要な場合の充実強化に努めている」「我が国の国益保護の観点や国民の十分な理解が得られるかなど、多角的かつ慎重に検討されるべきものと認識している」としています。
出典:「日本はスパイ天国」という評価及び「スパイ防止法」制定に関する質問主意書:答弁[PDF]

 要約すると、まずは安倍政権以降に制定された法律と既存の法律で厳正に取り締まりを行い、それらが不十分であれば取組の充実強化を図るということです。スパイ行為への取り締まりに消極的と解釈できるものではありません。
 またスパイ防止法に関しては国民の理解が得られるか、多角的かつ慎重に検討されるべきとして、制定を否定していません。

 一部の国語力が欠如した人たちが「慎重に検討」という言葉を消極的と解釈しているようですが、慎重とは「注意深く、じっくり考える」という意味で、政府答弁にある「慎重に検討」とは「注意深く考え調査を行う」という意味になります。政府が検討という言葉を使う重みは考えれば理解できるでしょう。

 この「慎重」という言葉に対する誤解は岩屋外務大臣の国会答弁でも起きていて、大臣は「多角的な観点から慎重に検討され、国民の十分な理解が得られることが望ましい」「私は、否定的というよりも、慎重な認識をお示しをした」と発言したことを産経新聞が「私は慎重だ」と消極的と言う意味で要約してしまいました。
参考:第217回国会 参議院 外交防衛委員会 第19号 令和7年6月12日 | 国会会議録検索システム
参考:スパイ防止法 岩屋外相「私は慎重」「配慮が求められる」参院外防委 高市氏が首相に提言 – 産経ニュース

 これで大臣は猛バッシングを受けることになるわけですが、産経新聞の「慎重だ」という言葉は岩屋大臣ではなく維新の柳ヶ瀬議員(当時)が「慎重だという意見でございました。」と個人の感想を述べた部分であって、岩屋大臣の発言ではありません。岩屋大臣は「否定的ではない」と自身の認識をはっきりと示しています。

 このように、石破政権がスパイ防止法について、必要ないという認識を示したという事実はなく、一貫して慎重に検討する旨を述べています。しつこいようですが慎重に検討するというのは「注意深く考え調査を行う」という意味であって、スパイ防止法の制定について否定するものではなく、額面通りにとっても検討が行われているわけです。

中曽根内閣との比較は不適切

 かつてスパイ防止法の必要性を強く訴えた中曽根康弘総理が、昭和61年4月18日の答弁書で「スパイ活動が容易で現行法では罪が軽い」としたことと比較され、産経新聞は石破総理の姿勢と比較して批判しています。
参考:いわゆる「スパイ天国」論に関する質問主意書:質問本文:参議院
参考:参議院議員喜屋武眞榮君提出いわゆる「スパイ天国」論に関する質問に対する答弁書:答弁本文:参議院
参考:「スパイ天国」繰り返し、防止法制定を推進した中曽根元首相 石破政権の答弁書とは大違い – 産経ニュース

 原則として政府答弁は過去の答弁と整合性を取るため、大筋で齟齬はないはずが、どうしてこれだけ表現に差が出ているかを精査できないのが産経新聞の限界なのかもしれません。実際に中曽根総理の在任時は「スパイ天国」であって、規制する関連の法律もなく野放しだったわけです。これが安倍政権になってから、諜報活動など海外からの脅威に対応する法律が制定されていきます。

 2014年に特定秘密保護法が施行、2015年にサイバーセキュリティ基本法施行、2016年に通信傍受法を大幅改正しテロや諜報活動に対応、2022年に経済安全保障推進法が段階的に施行、重要土地等調査法も施行されています。

 これらの法律では、スパイ行為全般を取り締まることはできないことは度々指摘されていますが、少なくとも中曽根内閣の時代とは状況が全く異なります。抵抗を受けながらもこれらの法案を成立させた政府として、現状の日本を、なんら抑止力を持たないスパイ天国と評価できないことは当然と言えるでしょう。繰り返しになりますが、それでも石破内閣はスパイ防止法の必要性を否定していません。
 安倍政権以降の情報保全や諜報活動への対応と、中曽根内閣の時代を比べる産経新聞の視点は完全な誤りがあったと言えるでしょう。

安倍内閣でも同様の答弁

 石破政権ではスパイ防止法の導入は絶望的だ!と一部の自称保守界隈が憎悪を煽っていますが、圧倒的な支持と強固な政権地盤を誇った安倍晋三総理が、長期政権のなかでも成しえなかったことを、どうして「やろうと思えばできる」みたいな軽々しい発想で批判してしまうのでしょうか。
安倍長期政権で成しえなかったことは、それ以降の政権にとっても極めて困難であるという認識を持っていれば、こんなデタラメな解釈と煽りはできないはずです。

 安倍元総理が亡くなってから、成しえなかったことを後任の総理の責任であるかのように責め立てることを安倍さんは望んでいたでしょうか?
政権交代が起きたとしても、歴代内閣の見解を踏襲し整合性を取るというのは当然のことで、安倍政権も石破政権も一貫して同じです。

 最後に、当時はNHKから国民を守る党所属だった丸山穂高衆議院議員から、スパイ防止法制定の意思を問われた質問主意書に対する内閣総理大臣・安倍晋三の答弁を紹介します。

 お尋ねの「スパイ防止法」の制定及び「対外情報機関」の創設については、様々な議論があるものと承知しているが、政府としては、今後とも、情報機能の更なる強化について検討を行ってまいりたい。
出典:衆議院議員丸山穂高君提出スパイ活動に対抗し得る体制の確立に関する質問に対する答弁書

 どうでしょう?石破内閣と同じ答弁ではないですか。
 間違いなく安倍元総理はスパイ防止法の必要性を強く認識していた人物であり、その認識を石破内閣も引き継いでいるということです。今は石破総理を叩けば金になる時期かもしれませんが、その時々によって誰を叩き誰にすり寄るかを考えているような連中の言説など、真実性も信念もないものであるということです。

【運営・執筆】竹本てつじ【転載について
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