ファクトチェック!自民党の大臣が人工地震・津波兵器を国会で認めた?動画が拡散→民主党政権の政務官が陰謀論を糾弾された際のもの
自民党の国務大臣が「人工地震・津波兵器」について国会で認める発言をしたとされる動画がYouTubeとツイッターで出回っている。
これは浜田和幸氏が学者時代に「二〇〇四年のインドネシア・スマトラ沖地震と巨大津波も、アメリカの開発した地震兵器、津波兵器が引き起こしたものである疑いがある」と論文に記述していたことが国会で問題視されたもので、政府や国務大臣が人工地震・津波兵器を認めたという事実はない。
肩書もデタラメで、浜田氏が大臣に就任したことは一度もなく当時は自民党所属でもない。
https://youtube.com/shorts/OMRCRl063-0?feature=share
登場人物の肩書がすべて嘘
人工地震そのものについても、陰謀論者の曲解もあるようなので後述するが、そもそも切り取りの元となった同じチャンネルのフル動画もデタラメだらけだ。
https://youtu.be/QPHMGYMuUAI
まず答弁者の浜田和幸参議院議員(当時)の肩書が「自由民主党・総務大臣」になっているが、委員会が開催された平成23年7月11日は民主党政権だ。浜田氏は2010年7月の参院選で自民党公認で出馬、初当選しているが、それから1年も経たずに政務官の椅子を条件に菅直人政権から引き抜かれ離党している。答弁時は無所属で、大臣ではなく総務大臣政務官である。
さらに、質問をしている柿沢未途衆議院議員の肩書も「立憲民主党(現:自民党)」となっているが、2011年7月時点で立憲民主党は存在せず当時は「みんなの党」に所属していた。その後に民進党に合流はしたが、希望の党を経て無所属となり、2021年10月の衆院選に当選したことで入党の意思を示していた自民党から追加公認を受けている。立憲民主党に所属したことは一度もない。
平野達男参議院議員(当時)の肩書も「自由民主党・国務大臣」となっているが、当時は民主党所属の東日本大震災復興対策担当大臣である。自民党に入党したのは2016年だ。動画のタイトルが平野氏の発言として「人工地震あります。常識です」となっているが、そのような発言もしていない。
登場人物を「自民党」「大臣」とすることで、真実味を帯びさせインパクトある動画にしようとしたのかもしれないが、一般人でも2011年が民主党政権であったことは分かるだろう。
質疑は地震兵器などを認めるものではなく、当時はまだ復興庁ができる前で、総務大臣政務官が震災復興対応を担当していたことから、「スマトラ沖地震はアメリカの地震兵器の可能性」などとという論文を書いた浜田氏が適任であるかどうかを、みんなの党の柿沢氏が指摘したという流れだ。
浜田和幸氏とは?
SNS上では「人工地震」に関する陰謀論を展開するアカウントが、この発言を論拠としているようだが、そもそも浜田和幸氏がどういう人物か、雑誌への寄稿を見れば何となく想像できるだろう。
例によってよからぬ雑誌を買ってしまったが、『WiLL』2022年10月号に、「国際政治経済学者」を名乗る浜田和幸という人が「中国が恐竜を復活、兵器化を狙っている」という記事を書いていて悶絶。 pic.twitter.com/1YJiC4nWgE
— 早川タダノリ (@hayakawa2600) August 26, 2022
人工地震に関する世間の誤解
人工地震については、昔は新聞にも掲載されていたという話をよく聞くが、そもそも核実験や工事での発破で生じる振動であったり、火薬などを使用し意図的に発生させた地震波の伝播で地殻・地質構造などを調査する際の地震を自然地震と区別するため「人工地震」と呼んでいるのであって、軍事目的で地震を発生させているわけではない。陰謀説ブログなどで、例に挙げられるほとんどが地下構造調査などに関する記事である。
いわゆる「地震兵器」と「人工地震」は全く異なるもので、前述の通り自然地震以外の工事や調査で発生するものを「人工地震」と呼んでいるだけだ。地震兵器に関しても理論上は可能かもしれないが、特定の地域に壊滅的な地震を発生させるとなるとほぼ不可能だろう。地下で核爆発などを起こしているという陰謀説もあるが、巨大地震の震源となる深さまで掘削するような技術はなく、あったとしてもリスクばかりでメリットがない。掘削を始めた時点で他国の軍に察知され、仮に成功したとしても核の使用は隠せない。どのみち報復されるので、核ミサイルを直接撃ち込むのが現実的だ。
核実験を沖合や地下で行っても、周辺国が壊滅していないことを考えれば、巨大地震と巨大津波発生のエネルギーが容易に再現できるものではないことが素人でも理解できる。
非常に誤解を受けやすい「人工地震」という用語にも問題があるのかもしれないが、別の人工的な要因で意図せず発生する誘発地震などもあり、陰謀論者には想像を膨らませやすい問題かもしれない。
まとめ いろいろ酷い
今回の人工地震陰謀説に関しては、以下のような矛盾点が指摘できる。
・登場人物の肩書がすべて嘘
浜田和幸総務大臣(自民党)→総務政務官(無所属)
柿沢未途議員(立憲民主党・現自民党)→みんなの党
平野達男国務大臣(自民党)→民主党、菅直人内閣
・政府や大臣が認めた事実なし
平野達男大臣(当時)は浜田政務官の答弁を含め「少なくとも今回の震災復興には全く関係のない話だ」として、人工地震兵器の信ぴょう性に言及していない。浜田政務官(当時)の個人的な考えで「アメリカが発生させた可能性」というニュアンスで発言し、政務官の立場としてはあくまで一般論(浜田氏の感覚で)ということで話をしている。
全編動画のタイトルで平野氏の発言として「人工地震あります。常識です」となっているが、そのような発言は議事録にも公式動画にも存在しない。
・人工地震という用語を誤解
この質疑では「地震兵器・津波兵器」という陰謀説を指摘されたものであるが、動画タイトルでは核実験や地殻調査などで発生する「人工地震」という意味の異なる用語が使われ、それにより過去の調査や実験で実際に発生した人工地震の情報と地震兵器がリンクされてしまった。
参考議事録:第177回国会 衆議院 東日本大震災復興特別委員会 第10号 平成23年7月11日 発言番号181~184
この情報を広めている人たちが、ことごとく反ワクチンということから"さもありなん"という印象もある。この記事を読んでも「真実はこうやって隠された」と、陰謀論への情熱をさらに過熱させるだけかもしれない。
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