ファクトチェック!コロナ罹患、ワクチン接種後の小児死亡「国会で厚労省の数字が訂正」→答弁をカットしつなぎ合わせた捏造動画

政治・社会


 新型コロナウイルス感染症を発症した小児などが死亡した報告例41件を、国会で質問を受けた厚生労働省が29件に訂正したという動画が拡散され約6万回も再生されている。
 立憲民主党の川田龍平参議院議員の質疑動画に「川田龍平議員はワクチンリスク警鐘を」という政治経済学者の植草一秀氏のブログを抜粋したデータ・マックスの記事(10月21日の記事で質疑より前のもので関係がない)が貼られており、ワクチン接種後の小児死亡例を下方修正したと誤認するコメントと、コロナウイルス感染症に罹患後の小児死亡例を厚労省が実際より多く報告し、それを国会で指摘され下方修正したというコメントが多く寄せられている。

 厚労省がコロナウイルスへの警戒を煽り、ワクチンのリスクを隠しているという陰謀説的な反応が殺到しているが、動画は捏造されたもので極めて悪質な行為である。

実際の答弁動画と比較すると

 問題の動画は厚労省の答弁部分を途中カットしてつなぎ合わせた捏造であり、実際の答弁動画と議事録を確認すると別の意味になるように意図的にカットし巧妙に編集されていることがわかる。


第210回国会 参議院 厚生労働委員会 第2号 令和4年10月27日
赤字の部分がカットされ前後の発言につなぎ合わされている

○政府参考人(佐原康之君) お答えいたします。
 まず、これまで、新型コロナウイルス感染症のオミクロン株による死亡例等の知見を収集、監視するために、自治体に重症例及び死亡例について厚生労働省への報告をお願いしてきたところでございます。
 そうした中、オミクロン株が主流となった本年の感染拡大に伴いまして、小児の、お子様の感染者数の増加が見られたために、国立感染症研究所とともに、小児科学会等の関係学会と連携しまして、新型コロナウイルス感染症における二十歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査を実施し、調査結果を九月十四日に公表したところでございます。
 この調査、本調査の目的は、二十歳未満の死亡例の知見の集積及び死亡の経緯等の詳細な情報を収集することでありまして、そのため、本調査では、新型コロナウイルス感染症に罹患してすぐの時期、いわゆる急性期以降の、以降の死亡例も含めて調査の対象としております。
 調査の結果ですが、令和四年一月一日から八月三十一日において、二十歳未満の小児等の死亡例として四十一例が確認をされております。この四十一例のうち、関係者に聞き取り調査やアンケート調査等の実地調査が、協力が得られましてできた症例につきましては三十二例ございます。この三十二例のうち、御質問の一つだと思いますが、明らかな内因性死亡、外傷等を除くものですが、と考えられたものは二十九例ございます。また、この二十九例のうち、基礎疾患の有無で見ますと、基礎疾患がある方が十四例、ない方が十五例、また、新型コロナワクチンの接種歴で見ますと、五歳未満の、この時点では接種対象年齢外の方が十四例、それから五歳以上の接種対象年齢の方が十五例おりまして、この十五例のうちの未接種者の方が十三名であったということでございます。
 なお、これも御指摘の、御質問の点かと思いますが、本調査では、本調査は新型コロナワクチンの有効性を評価することは目的にしたものではありませんで、二十歳未満の死亡例の知見の収集及び死亡の経緯等の詳細な情報を集積することを目的に実施されたものと承知をしております。
 これらの結果につきましては、厚労省としては、より詳細な結果は厚労省のアドバイザリーボードで議論を公表するとともに、感染症研究所のホームページにも記載を、掲載をしているところであります。また、十月五日にこの診療の手引きに盛り込みまして、医療現場へ周知をしたところでございます。
 我々としては、引き続き小児等の死亡例の知見を収集し、医療現場にフィードバックしていきたいというふうに考えております。

 小児などがコロナウイルス罹患後に亡くなった41件の症例のうち調査の協力が得られたのが32例で、そこから事故などの外傷による外因性を除いた数字が29例という説明部分をカットしてつなぎ合わせ、これがワクチンの有効性を評価することを目的にしたものではないという重要な説明もカットされているのだ。カットしたうえでテロップまでつなぎ合わせる手の込みようで、ほとんどの視聴者が捏造に気が付いていない。
 一方、画質の状態からして、この動画はチャンネル主が制作したものではなく、他から引っ張ってきたものである可能性もある。いずれにしてもタイトルの煽りなどからして悪質な行為だ。

川田議員の質問も事実誤認

 質疑は国立感染研究所(感染研)の調査結果について、朝日新聞が41の症例全てがコロナ罹患による死亡と誤認させる報道を行っていることに関して厚労省に詳細な説明を求めたものだ。

 だが、この川田議員の質問も事実誤認の部分がある。川田議員は明らかにコロナが死因とは考えられない外因性のものを除いた29例のうち、ワクチン接種済と未接種に1名の違いしかなく、多くの死亡小児がワクチン未接種であったという感染研の表現を不正確と指摘している。
 これは勘違いによるもので、感染研の調査では死亡した小児を「ワクチン接種済」と「未接種」で分ける前に年齢で「接種対象(5歳以上)」と「接種対象外(5歳未満)」で分別して、その差が1名という説明をしている。そこから、ワクチン接種対象の年齢に達している5歳以上の15例については、未接種が13例(87%)、2回接種が2例(13%)と説明されており、2回接種でも死亡した2例も接種後に最低3カ月以上経過した12歳以上であることから、ワクチンを接種した5歳から11歳の小児の死亡例は調査対象期間だけで言えば1件も認められない。

新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報):2022年8月31日現在
新型コロナワクチンは、29例のうち接種対象外年齢の者が14例(48%)、接種対象年齢の者が15例(52%)であり、接種対象年齢となる5歳以上の15例では、未接種が13例(87%)、2回接種が2例(13%)であった。接種を受けた2例はともに12歳以上であり、発症日は、最終接種日から最低3ヶ月を経過していた。

 あくまで小児死亡症例を調査する目的であり、ワクチンの有効性を調査する目的ではないが、それでも対象年齢の小児がワクチンを2回接種して死亡した例が極端に少ないことは分かるだろう。小児の罹患後死亡症例のほとんどがワクチン未接種である。

 質問の前提が間違っており、これに厚労省が説明を行ったわけであるが、これに関して川田議員からも反論はなかった。こういった前後の部分と途中の説明を巧妙にカットした動画だけを見ているひとには知りようのないことではあるが。

意味不明が陰謀論に化ける

 問題のYouTubeチャンネル主は参政党の熱心な支持者であるが、コロナやワクチンに疑問を抱かせる動画に参政党支持者が食いつき収益につながることを知っているのだろう。

 感染研のデータどころかカットされていない質疑を確認すれば、何も疑問が生じるような内容ではなかったことが分かる。しかし、これをカットつなぎ合わせ編集をして、関係のないワクチンの危険性を煽る記事を貼り付けることで、視聴者は「不思議なことが起きている」と錯覚するのだ。

 YouTubeの規約上も完全にアウト。これでチャンネルが閉鎖されても文句は言えないだろう。

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【運営・執筆】竹本てつじ【転載について

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