立憲・山岸一生「玉城さんは横一線の厳しい勝負」沖縄県知事選巡り情勢調査の信用を棄損し喧伝する悪質性【マガジン187号】
立憲民主党の山岸一生衆議院議員が沖縄県知事選応援のために、現職の玉城デニー候補に送ったビデオメッセージが、情勢調査の信用を貶めているのではないかと一部で物議を醸している。
山岸一生より、沖縄県知事選を戦う #玉城デニー @tamakidenny さんについてのビデオメッセージです。#玉城デニーさんを支持します#誰ひとり取り残さない沖縄 https://t.co/DeRQLY8AKp pic.twitter.com/BYegPzHqL4
— 山岸一生 衆議院議員 立憲民主党 東京9区 (@isseiyamagishi) September 5, 2022
問題となっているのは動画中の以下の部分だ。
報道では「玉城さん先行」こんな風に言われてますが、みなさん、これ非常に誤差が大きい数字です。私はかつて朝日新聞の記者として沖縄にいて、何度も選挙の分析してきました。調査の数字と実際の選挙の結果、大きく食い違う。何度も目にしてきました。みなさん、玉城さんは本当にいま横一線の厳しい勝負をたたかっています。
筆者の知る限り玉城デニー氏が他候補と横一線などという情勢は存在しない。また情勢調査を「誤差が大きい」というのも初耳で、注目度の高い知事選で行われる調査はかなりの精度である。
情勢調査は予想ではない
山岸氏の言説にはかつて朝日新聞で先輩だった方からも苦言が呈されている。
「調査の数字と実際の選挙の結果が大きく食い違う。何度も目にしてきました」って初耳ですね。朝日新聞の政治報道はともかく、前回の衆院選のように世論調査や出口調査の精度は高いと認識していますが。その根拠と証拠を是非ご教示ください。@isseiyamagishi https://t.co/anMdXJqRg4
— 峯村 健司 / Kenji Minemura「ウクライナ戦争と米中対立」(幻冬舎新書)9月21日発売 (@kenji_minemura) September 7, 2022
私も同じように山岸氏に指摘したが、光の速さでブロックされてしまった。
情勢調査は「予想」しているわけではなく、実際の電話調査や現地での動き、過去のデータ分析などによって公選法の範囲内で公表されているが、単一の選挙区単位で大きく外すことはまずありえない。
近い選挙では東京都議選で事前の予測と結果がかけ離れていたが、これは最終盤で小池百合子都知事が選挙現場へ電撃復帰したことが大きい。最終盤であったことから追加の情勢調査は行われておらず、事前の調査と比べた結果は参考にならない。選挙は最終日にひっくり返ることもあるが、少なくとも終盤までの情勢調査は実勢に極めて近い数字となっている。よって、沖縄県知事選でも現時点での情勢調査が間違っているかのような言説は悪質な虚偽情報である。リードしていても逆転される可能性はあるという範囲にとどめておけばいいものを、知ったかぶっていいかげんなことをいうのは政治家にあるまじき行為。
元朝日新聞の肩書を利用
山岸氏の言説が悪質なのは「元朝日新聞記者」という肩書を使っているところだ。まるで在職中にそのような体験があったかのような言いぶりだが、沖縄の選挙で情勢調査が大きく外れることが相次いだという話は聞いたことがない。
元朝日新聞の肩書を使いながら、かつて世話になった会社の人間を貶めていることに気が付いていないのだろう。ゴシップ紙や一部週刊誌が流す情勢調査結果は、そもそも電話調査もやっていないギャンブル予想以下のものが多いが、新聞社が行う情勢調査は統計的にも根拠のある数字だ。
選挙の現場を知らない?
選挙の現場において、陣営として優勢の情勢調査結果を得たとしても「厳しいたたかい」と伝えることはある。これはすでに投票先が決まっている支持層が棄権することを防ぐための定番言説でもある。一方で山岸氏の言説は元朝日新聞という看板を使い、各社が出す情勢調査そのものの信用を棄損し、あたかも横一線という情勢調査があるかのような印象を与えるものだ。
こういったデタラメな言説が、結果的に現職陣営の足を引っ張ることになることが分かっていない。なにかと「元朝日新聞」という肩書を出しているが、記者クラブという団体行動と厳しい現場取材の区別もついていないのだろう。
昨年の衆院選で筆者が取材した現場でも「情勢調査」を巡る陣営の思惑と葛藤を目にした。