デマ検証!東京新聞「伊方原発一時全電源喪失」→全電源喪失の事実なし、原子力規制庁へは停電の可能性を事前連絡
愛媛県伊方町の伊方原子力発電所で25日、数秒間の停電が発生するトラブルが発生した。予備系統の送電線と非常用ディーゼル発電機が作動し数秒で受電は復旧し全電源喪失には至らなかった。
初報の共同通信が「ほぼ全ての電源が数秒間喪失」(四国電力会見発言と思われる)と曖昧な表現を用いてネット上で物議を醸しているが、追随する各社は「停電トラブル」か、一部の給電が停止する「電源喪失」という表現にとどめている。これは四国電力の発表からはトラブルの程度が把握できない状況であることが混乱の原因と思われるが、26日の東京新聞では「一時全電源喪失」、愛媛新聞では「一時、全交流電源を喪失」と断定的に伝えている。
現時点での正しい表現は「停電トラブル」か「一時、受電停止」である。四国電力の発表を見る限り予備系統どころかバックアップの蓄電(直流)からも受電不能となる「全電源喪失」が起きたという事実は無く、愛媛新聞が使用した「全交流電源喪失」というタイトルも、予備系統から受電可能でであったことから不正確な表現と思われる。
全電源喪失と全交流電源喪失の定義については以下の論文を参照
全電源喪失について – j-stage 著者: 岡本孝司 · 2012
公式発表「送電線からの受電停止」
正確な報道をするためには、肝心の四国電力の発表を確認する必要があるのだが、公式の発表では「18万7千V送電線からの受電停止」という文言だけで「電源喪失」という報告はない。
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この図と説明からして、メインの送電線とは別の予備系統があり1号機と2号機は数秒で切り替え受電再開、3号機は先にディーゼル発電機が作動したが10秒後にはこちらも予備系統の送電線から受電開始している。これを東日本大震災で発生した福島第一原発事故と同等の「全電源喪失」とした東京新聞の報道は完全に間違っていることがわかる。また、非常用の蓄電ではなく予備系統やディーゼルに切り替えができていることから「全交流電源喪失」という表現も不適切と思われる。
1月29日追記:27日付けで四国電力から続報があり、当サイトの指摘通り全電源喪失どころか全交流電源喪失も発生していなかったとのこと
資料:伊方発電所 18万7千V送電線からの受電停止について(続報)[PDF]
2014年の四国電力アニュアルレポート(総合報告書)で電力確保について説明されているが、ここで示されたすべてのバックアップが給電不能となる事故が「全電源喪失」である。
(3)電源を確保するために
従来から、外部から電力を供給できる送電線を7回線、非常用ディーゼル発電機を各号機に2台ずつ配備していますが、新たに、海抜32mの高台に4台の空冷式非常用発電装置を配備するとともに、海抜95mの変電所から配電線を2回線敷設しました。また、2015年度までに、非常用ガスタービン発電機や既存の外部電源受電設備が使用できない場合に備えて、非常用外部電源受電設備を設置予定です。
出典:四国電力アニュアルレポート2014[PDF]
停電の可能性を事前に報告
NHKの報道によると、2系統ある送電線のうちバックアップ用系統の安全装置を点検中に停電が発生している。この停電の可能性は事前に原子力規制庁に報告しており、バックアップも問題なくできていることから法令による報告対象とはならないようだ。
参考:伊方原発で一時電源喪失 放射性物質漏れはなし | NHKニュース
作業中に停電することを予測して報告し、想定の範囲内で起きた停電がどうしてこのような騒ぎになるのだろうか。東京新聞が原子力規制庁や四国電力にしっかり取材して報じればこのようなことにならないのだが、少なくとも取材できていない部分は書かなければいいのだ。それを重大事故のように不安を煽るのは反原発カルトのやることで報道のやることではない。
東京新聞は謝罪と撤回を
四国電力の会見が25日の午後10時40分に愛媛県庁で行われているようだが、時間的にも翌日の朝刊までに十分な取材が出来ず各社の報道が混乱したのは理解できる。また、四国電力の公式発表も前述の簡素なPDF資料1枚のみでは事態が把握できず続報が待たれる。少なくとも、電力供給のバックアップ体制についての資料を添付して「全電源喪失」ではないことを明確にしていれば混乱は避けられたかもしれない。
また、東京新聞以外のマスコミ各社も、停電によるバックアップ作動を「一時、電源喪失」という表現で「全電源喪失」と誤認させるような意図も感じられ適切な報道とは思えない。おそらく四国電力の会見で「ほぼ全ての電源が数秒間喪失」という発言があったのだろうが、トラブルの経緯からして「電源が落ち数秒間停電した」という意味だろう。このあたりが曖昧であったために報道が混乱した感は否めないが、とにかく確証のないことを断定的に書いて不安を煽ることは控えるべきだろう。
いずれにしても、交流電源だけが受電できなくなる「全交流電源喪失」や、非常用の蓄電も含め受電そのものが不可能となる「全電源喪失」を安易に報道が使うべきではない。また、非常用どころか予備系統の送電線から受電可能な状態で、切り替えまでの数秒間の「受電停止」を「全電源喪失」とタイトルで煽った東京新聞は撤回し謝罪する必要があるだろう。
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