映画『Fukushima 50』は政府のカネで作った自民プロパガンダ映画なのか?補助金の金額から見える真相

政治・社会



 福島第一原発事故対応に従事した作業員らの奮闘を描いた映画『Fukushima 50』について、政権に批判的なSNSユーザーの間で「政府のカネで作った自民プロパガンダ映画」とする記事が拡散されている。
 記事を書いた 新恭(あらたきょう)氏は「客観的な事実」として故・津川雅彦氏と安倍前総理の関係、文化庁文化芸術振興費補助金による助成などを根拠にしているようだ。

 当サイトで記事の信ぴょう性に検証してみたが、結論から言うと「難癖」に過ぎず、重要な助成金の意味や金額などを明記していない不正確なものであった。

補助金と制作費を混同した妄言

 新氏が「政府のカネで作った自民プロパガンダ映画」とする根拠が以下の部分だ。

政府のカネで作った自民プロパガンダ映画『Fukushima 50』が歪曲する真実 – まぐまぐニュース!
(前略)映画のエグゼクティブプロデューサー、井上伸一郎氏(株式会社KADOKAWA副社長)が、昨年3月、ネットニュースのインタビューで語ったところによると、もともとの企画者は俳優の津川雅彦氏(故人)であり、角川歴彦会長に話を持ち込んできた。角川会長から「これを映画化できないか」と、門田氏の原作を手渡されたのが2015年ごろだという。

津川氏といえば、熱烈な安倍晋三応援団の1人だった。2012年9月に発足した「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」で発起人、2015年10月に発足した安倍首相直轄の有識者会議「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」では座長をつとめた。

津川氏は『Fukushima 50』の完成を見届けることなく、亡くなったが、この映画にはしっかりと政府のカネがついた。文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)である。いわば、安倍政権ご推奨の作品というわけだ。(後略)

 ほとんど検証の必要がないくらい稚拙なものだが、まず津川氏が安倍総理(当時)を応援していたことは何の根拠にもなっていない。これを言い出すと政権に批判的で野党と強調している俳優が関わった作品は「野党のプロパガンダ映画」ということになる。あまりにもばかばかしい話で一笑に付すレベル。

補助金の内容と構成

 文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)についても、さも政府のカネで映画が製作されたかのように記述されているが、これは「補助金」であって映画の総製作費ではない。文化庁が平成31年度の採択状況を公開しているのだが、平成31年度の劇映画、記録映画、アニメ映画の助成金公募には65作品から応募があり、採択され補助金を受けたのは25作品だ。そこにラインナップされた作品はどう見ても安倍政権推奨という基準ではない。
 さらに、同作品への補助金は本体2000万であり、その他は障害者向けの字幕と音声ガイドに合計200万円のみだ。同作品の総製作費は不明だが、キャストが佐藤浩市、渡辺謙、吉岡里穂などトップクラスが多数出演し精巧かつ巨大なセットやVFXを駆使した大作であることから2000万円の補助金はほんの一部に過ぎない。
資料:平成31年度文化芸術振興費補助金による助成対象活動の決定について 映画製作への支援(第2回募集分)令和元年9月30日  独立行政法人 日本芸術文化振興会


 制作費については不明であるが、同作品に批判的なある映画監督によると少なくとも3~4億円とのことだ。おそらくそれ以上はかかっているものと思われるが、総製作費のうち補助金は5%前後しか充てられていない。これで"政府のカネで作った"とするのは相当無理がある。

製作委員会方式を無視している

 同作品は複数企業が資金調達を担う、いわゆる「製作委員会方式」であり、参加した企業はKADOKAWA、松竹、IMAGICA GROUP、中日新聞社、報知新聞社、読売新聞グループ本社、福島民友、産業経済新聞社、西日本新聞社、中国新聞社、ムービーウォーカーとなっており、安倍政権に批判的なメディアも参加している。

 こういった事実をまったく無視して、文化庁の予算とは言え独立行政法人「日本芸術文化振興会」の採択が安倍政権の推奨というのは飛躍し過ぎている。

 これを言い出すと、おなじ原発事故を扱った作品「太陽の蓋」は民主党系を資金面でバックアップする人物が制作した映画で、今でも立憲民主党の議員らが上映会などを繰り返し行っている「政党の映画」であり、これこそプロパガンダではないか。

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【運営・執筆】竹本てつじ【転載について

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